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なるほど法話 海 潮 音      


生活 第12話  自 我    

仏教では「無我」を説きますので、「我」は否定的に説かれますが、今問題にしようとする「自我」は仏教で否定される「我」とは異なります。

澤口俊之さんは「自我」には「自己意識」と「自己制御」の二つの側面があると言っています。

「自己意識」とは養老孟司さんの言う「脳が自分の機能をモニターしていること」に当たりましょう。

何のためにモニターするのかと言えば、「自己制御」すなわち、自分をコントロールするために、となりましょう。

そこで次に、自我のなりたちを考えてみますと、自我は人類だけでなく、ニホンザルなどの真猿類にもあるようです。

私たちが普通に脳と言っている大脳皮質は哺乳類の誕生と同時に現れました。

そして、その大脳皮質が脳全体に占める割合は、最も原始的な哺乳類である食虫類(モグラなど)では一○%〜一五%ですが、霊長類の原猿類(ギャラゴなど)、そして霊長類の真猿類(ニホンザルなど)というように進化するにしたがってその割合が増え、最も進化した人類では九○%を超えるそうです。

割合の増加の原因を暗示すると思われる生活形態について、澤口さんによると、食虫類や霊長類の原猿類までは単独生活者が多いのだそうですが、真猿類になると複雑な社会生活をするそうです。

そこで単独生活と社会生活とはどのように異なるかを考えてみますと、単独生活というのは森などの自然界の中で自分だけで餌を求める生き方ですから、自然界が相手であり、自然界は天変地変がない限り安定していますから、それへの対応は比較的単純な行動と言えましょう。

それに対して社会生活とは、生活の場は同じ自然界であっても、生活の相手は自然界よりも同じ仲間の方により重点が置かれることになりましょう。

仲間となると安定どころか、常に変化し、どのような行動をしようとしているか読む必要にせまられることにもなりましょう。同時に、その相手に対応した行動をとらなければなりません。そのためには自分自身の行動を常に監視する必要が出てきます。

このような働きをする自我も脳の機能というのであれば、人間の場合、澤口さんによると脳の構造は八歳までにほぼ出来上がり、機能も固まるということですから、8歳までの幼児期に培う必要があることになりましょう。

幼児期の子どもに如何にして「自我」なるものを培うのか。澤口さんは、子ども同士、近所の人たち、親兄弟といった複雑な人間関係の中で培われるのだと言われます。

幼児を家の中に閉じ込めず、外の社会に出してやらねばなりません。しかし、親の監視は必要です。見守ってやる必要があるでしょう。しかし、見守り方が重要です。やたらに手や口を出してはいけないのです。本当の危険を感じるまで我慢をしなければなりません。メイヤロフさんの「ケアの8要素」を参考にしてください。(平成16年8月)

音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。