このページは音声読み上げページです。下の[開始]ボタン(右矢印)を押すと、テキストの読み上げを開始します。([開始]ボタン(右矢印)が出ていない場合はここをクリックしてください。)


なるほど法話 海 潮 音      


生活 第10話  「育」とケア    

 前回、「育てる」の意味は「自らの力で育つのを育てる(助ける)」の意味に考えられると申し上げました。

では、そのような考えに立って、どう育てたらよいかが次の問題ですが、その問題を考える参考書として、”世界展望双書”の中の一冊『ケアの本質』(ミルトン・メイヤロフ著、田村真・向野宣之訳、ゆみる出版)という本をご紹介します。

その中で著者は「ケア」を定義して「ケアの対象が成長するのを援助すること」と述べるとともに、「ケアの対象」について「(その対象)が本来持っている権利において存在するものと認め、成長しようと努力している存在として尊重する」と述べています。

対象の独立性を認め、それが成長しようとしていることを尊重しつつ援助すべきことを言っているのでしょうから、「自らの力で育つのを育てる(助ける)」と同様の考え方かと思います。

次ぎに著者は、ケアの本質は「専心」即ち「ケアの対象(相手)に自分をゆだねること」であると言っています。

相手に自分をゆだねる訳ですから、相手第一主義とも言えましょう。従って「無私」(関心が自分にではなく相手に全面的に向かっていること)ということも説いています。このことは相手の言いなりになることを意味しているわけではありません。

ではどうするのかと言いますと、ケアの8要素が説かれます。

「希望」(相手が成長することを希望すること)
「信頼」(相手がその人なりに成長することを信頼すること)
「知識」(相手がどの方向に成長しようとしており、成長のために何を必要としているかを知ること)
「正直」(相手に自分の心を開くこと)
「謙遜」(相手よりも自分を一段下に置くこと)
「忍耐」(相手の行動をじれったく感じても手出しをせず我慢すること)
「勇気」(相手の行動に危険を感じてもぎりぎりまで任せる勇気を持つこと)
「修正」(相手が成長しているかどうかを見ながら自分のケアを修正すること) の8要素です。

これらは要するに、相手がその人なりに成長することを何よりも優先し、決してこちらの考えを押しつけないで援助する(ケアする)ということでしょう。これが相手第一主義の意味かと思います。

そして著者は「成長」ということを「他者をケアできるようになること」と言っています。「ケアできる」とは単に「世話できる」ことではなく、相手第一主義、即ち相手を重視した考え方ができると言うことが前提です。

親は相手第一主義で子どもを育てるわけですが、その子どもは相手第一主義の考えができる人間に育たなければ成長したとは言えないということです。 (平成16年6月)

音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。