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なるほど法話 海 潮 音      


禅 第 5 話  眼横鼻直    

道元禅師が最初に正式な説法されたのは京都・宇治の興聖寺においてでありました。その時、「眼横鼻直」(がんのうびちょく)という言葉を使っておられます。

どういう話のすじで使っておられるかといいますと、自分はわざわざ海を渡って中国(宋の時代)で学んできたけれども、眼横鼻直(眼が横に鼻が縦についている)、すなわち「あたりまえ」ということが人間のあり方だと悟って、だから他には一切何も持たずに手ぶらで帰ってきた、と言っておられます。

しかし、この「あたりまえ」とはどういうことでしょうか。私は『法句経』の「諸悪莫作、衆善奉行、自浄其意、是諸仏教」(悪いことをせず、善いことをする。そして自らの心を清める。これが諸仏の教えである。)の前半の句「諸悪莫作、衆善奉行」を思い出します。

確かに「あたりまえ」でしょう。しかし、私たちは果たしてこの「あたりまえ」の生活をしているでしょうか。そうではないと思います。ああしたい、こうしたい。あれが欲しい、これが欲しい。ああでもない、こうでもないと、欲望とこだわりの垢にまみれて今にも病気になりそうになって生活しているのではないでしょうか。

『法句経』の「自浄其意」とは、このような欲望とこだわりの垢を投げ捨てることを言うものと思います。そこに修行ということがあることになりますが、いろいろな修行のうち、道元禅師は坐禅を仏法の正門として選び取られました。そして、坐禅という修行をとおして欲望とこだわりの垢を落として「諸悪莫作、衆善奉行」というあたりまえの生活を過ごすことが仏の教えであるとわかったと、そんなことが「眼横鼻直」という言葉に込められているのではないかと思います。
きれいに洗ったコップで水を飲む。それまでどんなに汚れたコップでも。(平成7年1月)


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