なるほど法話 海 潮 音
禅 第38話 隠岐の島での講演会
今年一月末に隠岐の島(島根県)の完全寺ご住職田中俊朗老師よりお手紙を頂きました。 手紙の内容は毎年八月末にご自坊を会場に開いておられる「禅を聞く会」で話しをして欲しいというものでした。 面識のないお方でしたが、小著『なるほど仏教』をお読み下さり、お声をかけていただいたということでしたので、そういうことであればと、詳しいことは何もお聞きせずに、ご承諾申し上げるお手紙を差し上げました。 今年は第十一回目の「禅を聞く会」なのだそうで、開催日は八月二十七日ということでした。細かい打ち合わせで何回か手紙のやりとりがあり、予定の八月二十六日に隠岐の島に向かいました。 隠岐の島へは船で行くのが普通ですから、完全寺の方丈様はわざわざ定期船の時刻表をお送り下さり、適切なメモも添えて下さいましたが、四時間の乗船に恐怖を感じた私は、船に弱いことを理由にわがままを言って定期船を断り、新幹線で大阪に回り、伊丹空港から飛行機で隠岐に行くことにしました。 天の神(もし存在するとすれば)は、この私のわがままを見抜き、隠岐の島からの帰りの便で少しこらしめてやろうと、伊丹空港に近づいた頃、空港周辺にひどい雷雨を降らせ、搭乗便を左右に揺らして着陸を拒み、小一時間空港周辺を旋回させました。 ちょっとしたことで我を通そうとした私の態度は、まさに私がお引き受けした「禅を聞く会」でお話ししようとした「柔軟心」(我を通さずに何でも受け入れる心)に反していたのです。おまえの話は空念仏だと天の神に一喝されてしまいました。 更には、講演会の前夜、完全寺方丈様は私の宿泊先においでになり夕食をご馳走して下さいました。 その折に、これまで「禅を聞く会」に講師としてどのような方々を招かれたかをお話しになりました。 それを聞いてびっくりしました。板橋興宗禅師様、青山俊董老師様、小倉玄照老師様などの名前が挙がったからです。 これらの方々は曹洞宗門を代表する方々です。そんな方々が講演された会に招かれてしまったことを前日の宿泊先で知ったのです。驚くと同時に腹をくくりました。 まだあります。会が始まる直前、緊張して控え室におりましたら、高校時代の同級生という方が尋ねて来られました。 体格のよい、日焼けした方で、冗談交じりに家出をしてこちらで漁師をしているとのことでした。 ちょっと思い出せずにいましたが、知っている同級生の名前が何人か挙がると、自然に同級生同士という気になりました。そして、心を落ち着ける暇もなく講演会場に通されてしまったのです。(平成二十三年十月) |