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なるほど法話 海 潮 音      


禅 第 1 話  以心伝心    

「以心伝心」(いしんでんしん)とは禅語で、不立文字(ふりゅうもんじ)や教外別伝(きょうげべつでん)とほぼ同じ意味で使われます。文字や言葉(経典)では真理は伝わらず、心から心へ直接伝えられるものだという意味です。

禅宗では、釈尊から迦葉尊者に仏法が伝わったことを「拈華微笑」(ねんげみしょう)という話で伝えています。あるとき釈尊が弟子たちを前に何ごとも説かず、ただ一本の花を手にして示したところ、迦葉尊者だけがにっこりしてその意を悟り、そのとき真の仏法が釈尊から迦葉尊者に伝わったというお話です。

もう少し具体的なところでは、中国宋代の法演という禅僧の「夜盗の術」という話があります。ある泥棒の親子がいます。息子は父親が年とともに衰える様子に不安をおぼえ、泥棒の奥義を教えろと迫ります。そこで父親は「では今晩ついて来い」といって、二人である豪家に忍び込みます。

父親は息子に長もちの中に入れと言いつけ、息子が入ったところで長もちの蓋を締め、外から鍵をかけてしまいます。父親は素早く外に逃げ「泥棒だ、泥棒だ」と騒ぎました。それを聞いた息子は親たる者が何たることかと恨みます。

そのうち家の者が起きてきて万事休すです。そのとき、息子は窮しながらもふと思いつき「チュウチュウ」とネズミ鳴きをします。家の者が長もちにネズミがいると鍵をあけたところで、息子は飛び出し、逃げる途中で井戸に石をドボンと投げ込み、井戸に身を投げたかと思わせて、家に帰り着き、「どうやって逃げてきたか」と問う父親にかっかくしかじかと話したところで、父親は「夜盗の術の奥義をお前に伝授した」と言ったという話です。

この話でわかるように、禅宗で師匠から弟子への伝授は、弟子が自からもがきながら工夫して合格ラインに達したところで、師匠が「よし」と認可するというやり方です。師匠は口で教えたりはしないのです。

そのかわり師匠と弟子とは一緒に生活しなければなりません。その中で弟子は師匠から盗み取って自分のものとするわけです。今日の教育の不備はこの当たりが足らないのではないでしょうか。(平成11年7月)


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