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なるほど法話 海 潮 音      


社会 第57話  年頭に当たって   

      
 明けましておめでとうございます。

昨年の一年を振り返りますと、ひどいニュースが多かったですね。

「今年の漢字」はまだ出ていない(十二月十一日現在)と思いますが、「嘘」という漢字がふさわしいような気がします。あらゆる分野で「うそ」が多かったからです。

企業では日産や神戸製鋼といった日本を代表する企業があきれた不祥事をしていたり、
スポーツの世界では横綱が下の者に暴行して連日報道され、あげくの果てに引退となったり、
ロシアでは国家的なドーピングでIOCから五輪参加が拒否されたり、
政治の世界でも首をかしげる事が沢山あり、
学問の世界まで波及して東大教授の「不正論文撤回」というニュースが踊りました。

こんな事で日本は一体、大丈夫なのでしょうか。心配でたまりません。

 わび茶の創始者とされる村田珠光という人がいます。この人は一休宗純に参禅して印可証明を受けたとされますので、歴とした禅者でもあるわけですが、この珠光に「心の文」という一文があります。

冒頭に「此道、第一わろき事ハ、心のかまんかしやう也」とあります。

分かりにくいですね。でも心配ありません。熊倉功夫さんの現代語訳で冒頭部とそれに続く部分を紹介します。次のようです。

「茶の湯の道で、第一に悪いことは、心の我慢我執である。慢心し我を張る気持ちがあると、茶の湯の巧みな人を妬み、初心者を見下すようになる。これは特によくないことだ。巧みな人に接して、自分の未熟なことを悟って教えを願い、また初心者には修行の助けをし、成長に寄与すべきだ。云々」とあります。

「心のかまんかしやう」が「心の我慢我執」であり、熊倉さんは更にこれを「慢心し我を張る気持ち」と分かり易い言葉にされています。

不祥事を起こす人(企業など)は「おれがファーストだ」という気持ちにしがみついているからではないでしょうか。

人生色々です。常にファーストとは限りません。落ちることもあるでしょう。そのとき「巧みな人を妬」むことなく、「自分の未熟なことを悟って」努力すべきでありましょう。

それをせずにファーストを装うが故に不祥事となるように思います。

珠光の「心の文」の最後は「心の師とハなれ、心を師とせされ」(自分の心を磨く師に自らがなれ、しかし慢心に囚われた自分の心を師としてはならない)という茶道の名言とされることばで結ばれています。

 昨年の目を覆いたくなるような日本をキッチリ閉じて、新しい一年を切り開くために、心したいことばと存じます。  (平成三十年一月)
 

音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。