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なるほど法話 海 潮 音      


社会 第48話  八朔がなりました   


 当山は萩の三角州内にありますので裏山はありませんが、二、三キロメートル離れたところに山林があり、そこに末寺があります。

以前、私もそこの住職をしておりましたが、先代が昭和六十二年に遷化いたし、当山(海潮寺)に移りました。二十七年前の事です。

末寺に居りました頃は日常的に裏山に行って野良仕事をし、そこにはみかん畑があって八朔が実っていました。

 一昨年の九月に震災から一年半経った東北を見て回りました。その折に仙台の輪王寺様へ伺い御住職に始めてお目に掛かりました。

出発前に面会を予約しておりましたので、色々お話をお聴きすることができました。御住職は「いのちを守る森の防潮堤推進東北協議会」の会長を務めておられ、宮脇昭横浜国大名誉教授の提唱される「森の防潮堤」構想を熱っぽく語られました。

私も震災復興には何かお手伝いしたいと思っていましたので、そのヒントを探る目的もあったのです。

現在、国はコンクリートの防潮堤建設を進めていますが、どう考えても卓上論的構想のように思えてなりません。事実、そこに住む住民の方々は津波が来るのは困るが、海が見えないもの困るといって防潮堤の高さを低くし、何とも中途半端な構想でもめている様です。

ともあれ、私は輪王寺様にお邪魔する前に、仙台空港のすぐ近くにある試験的「森の防潮堤」を見学したのですが、そこでの植樹方法は、保水と除草の両効果をねらって稲わらが一面に敷かれていました。

その稲わらは当然風で飛びますからロープが張られ、そのロープは竹串にくくり付けてありました。私はこの光景を思い出し、私にできる事は、この竹串の提供だと思い当たったのです。

萩に帰り、早速、山へ行ってみました。二十年ぶりぐらいでしょうか。そこでみかん畑らしきものを見て驚きました。

まるで竹のジャングルです。もし、震災復興に何かお手伝いできないか、という思いがなかったら逃げ帰ったかも知れません。

しかし私は逆に奮い立ちました。これだけ竹があればいけると思い、すぐさま道具を揃え、作業に取りかかりました。

昨シーズンの冬の間、竹串を作って輪王寺様へ送り続け、去年の春頃にはジャングルはすっかり開けてみかん畑にもどり、ほとんど葉のついていない枯れかけた八朔の木ですが、一応みかん畑らしくなりました。

そして今シーズンも竹串作りに山へ行きましたら、またもや驚きました。木には青々とした葉がつき、たくさん八朔の実がなっているではないですか。これはひょっとしてご褒美かなと思い、早速おいしい八朔を頂きました。(平成二十六年四月)
 

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