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なるほど法話 海 潮 音
社会 第44話 命のたくましき力
「ゆく河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮ぶうたたかは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたる例なし」(方丈記)や「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり」(平家物語)などは世の無常なるはかなさを説いています。 道元禅師は更に「無常たのみがたし、しらず、露命いかなるみちのくさにかおちむ」(『正法眼蔵』重雲堂式)と命を露に喩えてはかなさの極まった姿を説かれています。 あらゆるものは無常であり、中でも命ほどはかないものはありません。確かにその通りですが、それは一人ひとりの立場からの話であり、人類全体から見ると少し違って見えてきます。 現在、地球上には70億の人類が生存し、その全てがホモ・サピエンスとされています。ホモ・サピエンスという種は既に30万年も続いており、更に「ヒト祖先」が現れたのは700万年も前とされています。 このことは個体(個)としての命は無常であり、限りあるものであっても、新たな命としての子孫を残すことにより、種(全)としてはあたかも無常の対極の永遠を目指しているかの如くです。 命とは、無常という「変化」を逆手にとり、「進化」に換えることによって、種としては無常の中にあって永遠を目指し、生き延びようとする「たくましき力」のように見えてきます。 昨年の東日本大震災においては、まさに無常の力のすさまじさになすすべなしの感でしたが、これからの日本をあげての復興に当たり、命あるものの持つ「たくましき力」を利用しない手はないでしょう。 その「たくましき力」を利用した復興構想の一つとして、横浜国立大学名誉教授・宮脇昭さんの提唱される「いのちを守る森の防潮堤」構想をまず挙げることができましょう。 この構想は被災地の沿岸300キロに震災瓦礫を混ぜた土塁を築き、その300キロの土塁全体にその土地本来の樹木を本来の植生を再現する形(潜在自然植生)で植樹することにより、次の氷河期が到来するまで9000年ももつという防潮堤構想をいいます。これはまさに「命による命を守る防潮堤構想」といえましょう。 勿論、300キロに渡って植樹された、津波に強いタブノキなどの常緑広葉樹一本々々が9000年も生き続けるというわけではありません。 しかし、潜在自然植生に従って植樹された樹木たちは、種子を通じて新しい命への再生を繰り返すことにより、強靱な防潮林を維持し続けるというのです。 無常の世には、命の無いコンクリートより、命ある無常なるものこそ力を発揮するといえましょうか。(平成24年12月) |
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