このページは音声読み上げページです。下の[開始]ボタン(右矢印)を押すと、テキストの読み上げを開始します。([開始]ボタン(右矢印)が出ていない場合はここをクリックしてください。)
なるほど法話 海 潮 音
社会 第38話 日本の進むべき道
昨年より暗いニュースが続いています。そんな中、『毎日新聞』の一月九日から十三日にかけての五回の連載「明日への視点」(「衰退する日本」に異論を唱える人たちの新たな視点の紹介)は、そんな暗さを吹き飛ばそうとするかのようでした。
第一回目のジョンV・ルース氏(現駐日米大使)は、人々が日本の未来について悲観的なことを口にするのを耳にするけれども、日本には自由経済という民主主義的価値観、教養ある人々、懸命に働く文化、創造力に富む国といった素晴らしい財産がある。これらを生かして世界的な視座を持ち、若者が大きく考え、夢を抱き、会社を起こしたり海外と協力できるように支援することが大事だと指摘しています。
第二回目の山中伸弥氏(京大教授、同大iPS細胞研究所長)は、研究環境など海外の方が素晴らしい面はあるけれども、日本には美しい国民性(コツコツと努力する、互いを思いやる、自我を張らず控えめ)がある。そんな日本の素晴らしさを見直し、政治のリーダー、教育者、報道はアピールしてほしいと訴えています。
第三回目の西水美恵子氏(元世界銀行副総裁)は、「自信喪失した日本」と書き立てているマスコミや政治家、大企業の社員が自信を失っているだけで、中小企業の経営者や地方の人たちは元気です。彼らは自分の会社と地域の将来が密接に結びついていて、その先には国の将来もある。中央省庁には民間のニーズをよく見ようという姿勢が欠けており、変な規制は取り払って国内の民間企業が思う存分自由に競争できるようにすべきであり、でないと生き残れる企業も駄目になると強い口調で指摘しています。
第四回目の佐伯啓思氏(京大教授)は、日本の抱える問題の多くはグローバル経済と深く結びついている。政治がグローバリズムと向き合う場合に、グローバルな競争を互角に戦って経済成長を追求するか、人口減少高齢化を前提に経済成長を落としてでも新たな日本独自の国家モデルを模索するか、二つに一つであり、低成長でも世界に貢献できる日本を目指すべきではないかと指摘しています。
最終回のエマニュエル・トッド氏(歴史人口学・家族人類学者)は、現状を変えるのに必要なのは、文化的、歴史的に近い地域(日本にとってはフィリッピンやベトナムなど)単位の経済協定だと指摘した上で、人類の真の力は、誤りを犯さない判断力ではなく誤っても生き延びる生命力だと考えると結んでいます。
経済大国であることが日本の道ではないでしょう。今こそ、何が日本の道かを考えるチャンスかと思います。(平成二十三年二月)
音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。