このページは音声読み上げページです。下の[開始]ボタン(右矢印)を押すと、テキストの読み上げを開始します。([開始]ボタン(右矢印)が出ていない場合はここをクリックしてください。)
なるほど法話 海 潮 音
社会 第36話 はやぶさ帰還
六月十三日深夜、七年の長旅を終え、小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還し、翌日、小惑星イトカワの砂が入っていると期待されるカプセルがオーストラリア南部のウーメラ砂漠で回収されました。
今回、「はやぶさ」が達成した成果には金メダル級の世界初がいくつも含まれています。
@新型電気推進エンジン(イオンエンジン)、これによって六十億キロ(月への往復約八千回分に相当)という気の遠くなるような宇宙の長旅を可能としました。
A自律航行システム、通常は地球からの指令によって探査機を操縦することになりますが、目的地が遠距離の場合、指令が届くのに時間がかかるため、カメラ画像などの情報を基にどのように行動したらよいかを自分で判断する必要が出てきます。この自律航行システムには日本が得意とするロボット技術が応用されました。
B小惑星イトカワの近距離詳細観測、05年九月から約二ヶ月間、「はやぶさ」はイトカワを近距離から隅々まで観測しましたが、このような詳細な小惑星観測は過去に例が無く、観測結果は米科学誌「サイエンス」で特集されたということです。
C更には、回収されたカプセルの中に小惑星イトカワの砂が実際に入っていたとしたら、太陽系の起源や進化がより詳しく解明できる可能性があるそうです。
それは、小惑星が地球などのように熱による変化を受けていないため「太陽系の化石」と呼ばれ、岩石の分析で太陽系誕生当時の特徴や進化の過程が分かるのだそうです。
さらにこのような金メダル級の成果を支えたのは精密部品を実際に製造した、日本が世界に誇る中小企業の町工場であったということも忘れてはならないでしょう。
はやぶさ帰還の喜びにわいた十四日未明の会見で、プロジェクトを率いた川口淳一郎宇宙航空研究開発機構(JAXA)教授は「次の計画がなければ、ノウハウ伝承の機会も失われる」と語気を強めたと報道されています。
JAXAは昨年、「はやぶさ2」の事業化を決断し、10年度予算の概算要求に開発費十七億円を計上しましたが、直後に政権が交代し、三千万円に激減され、事実上の取り下げを余儀なくされたということです。
資源の少ない日本は技術で立国する以外に道はないでしょう。川口教授が心配される技術の伝承は伊勢神宮の式年遷宮で古代日本人が既に教えています。今回の快挙は理系離れの歯止めにもなりましょう。
事業仕分けも大切とは思いますが、無駄使いの判断基準が「国家のため」でなく「政党のため」であっては困ります。専門家の意見に耳を傾ける必要がありましょう。(成二十二年七月)
音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。