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なるほど法話 海 潮 音      


社会 第33話  第一幸福丸    

 十月二十四日、佐賀県の八人乗り漁船「第一幸福丸」(19d)が伊豆諸島沖で転覆しましたが、四日後の二十八日、転覆した船内から三人が奇跡的に救助されたとのニュースが報道されました。ただ、船長は死亡、他の四人は行方不明のままとのことです。

救助された宇都宮森義さん〈57〉、早川雅雄さん〈38〉、鳰原貴光さん〈33〉の三人は、救助されるまで食べ物は一切なく、ペットボトルの水を一口か二口回し飲みしただけだったそうですから、正に奇跡の生還といえましょう。

救助された宇都宮さんは、親族に「三人いたから助かった。『頑張ろう』と励まし合いながら過ごした。一人だったら死んでいただろう」と話したということです(『毎日新聞』十月三十日)。

さらに、三十一日の伊豆漁協での記者会見で色々な事が明らかになりました。

三人が居たのは、当初いわれていた船室ではなく、「キール」と呼ばれる船室の床下部分(転覆で「天井裏」と表現)で、そこはエンジンとスクリューを結ぶシャフトが通っており、空間は狭いが機関室からの風が入り、そのために息苦しさから救われたようです。

何日目かに、倒れた冷蔵庫でふさがれていたハッチにすき間ができて光が差したとき、一番経験の浅い鳰原さんは、この暗闇から抜け出れば助かると思って外に出ようとしたのを、早川さんが、無理して出るより、ここで(救助を)待っていた方がいい、といって制したそうです。

「助かるか、助からへんか、半信半疑の気持。半分はあきらめていた」と話す早川さんは、家族のことを思いつづけていたとのことです。

「今日あたり来るのでは」と期待した五日目(二十八日)に、外から船底をコンコンたたくのが分かり、三人は思いきり船底をたたき返して、「おーい、ここだ。助けてくれー」と叫んだそうです(『毎日新聞』十一月一日)。

 偶然が重なった奇跡の生還には違いありませんが、三人の行動自体は生還をもたらす必然性があったように思われます。

海水を避けるための最適な場所にもぐりこみ、わずかの水を分け合い、暗闇で待つという困難を「頑張ろう」と励まし合いながらやりぬいた。これらの行動が奇跡の生還を引き寄せたに違いないと思うのです。他者への思いやりが自らを救う結果になったと思うのです。

道元禅師は仰っています。「愚人おもはくは、利他(他者を利すること)をさきとせば、自が利、はぶかれぬべし、と。しかには、あらざるなり。利行(利他行)は、一法なり、あまねく自他(自分も他人も)を利するなり」と。(『正法眼蔵』菩提薩F四摂法) (平成二十一年十二月)

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