このページは音声読み上げページです。下の[開始]ボタン(右矢印)を押すと、テキストの読み上げを開始します。([開始]ボタン(右矢印)が出ていない場合はここをクリックしてください。)


なるほど法話 海 潮 音      


社会 第27話  照顧脚下    

 明けましておめでとうございます。おめでたい新春には胸ふくらむ夢を語りたいものですが、どう考えても、明るい希望を持てる新年を迎えたとは到底思えません。

昨年のアメリカ発の金融危機で株が暴落し、世界的な不況がいまだに荒れ狂っているようです。世界一に躍り出たはずのトヨタが、昨年の下半期は赤字に転落というのですから、おして知るべしでありましょう。

やっと手にした就職内定が一方的に取り消されるという理不尽な目にあっている学生さんもおられる訳ですから、うかつな事も言えませんが、ここは腹に力を入れて申し上げたいと思います。

 今回の金融危機による株の暴落で、あっという間に世界の莫大な財産が水の泡と化したという現実に、目まいを感じざるを得ませんが、「株」とは一体何を意味するのでありましょうか。

素人考えでは、売れる物を作れば会社の株は上がるが、そうでなければ株は下がる、ということになるかと思います。ところが、今回の株の暴落は人々の「不安な心」が原因となっているようです。

それでは、これまで株をつり上げていたものは何でしょうか。たとえば、買って二、三年の車は見ばえは新車そのものです。走りもむしろ調子が出てきたところではないでしょうか。

にもかかわらず、テレビで宣伝する新車が欲しくなってつい買い換える。こんな調子で自動車産業が発展してきたのだとすれば、これは「浮かれた心」が自動車の株をつり上げていたと考えられましょう。

「浮かれた心」が株をつり上げ、「不安な心」が株を暴落させたとすれば、ここは少し立ち止まって考えねばならぬと思います。

 「浮かれた心が景気を引っぱり、
 物が売れれば増産増産、
 株が上がって産業発展、
 言う事なしで万々歳、
 こんな調子で数十年、
 気が付きゃ地球は黄信号」

 柄にもなく調子づいてしまいましたが、「浮かれた心」がもたらす産業発展は、裏に環境破壊を抱えているように思います。私たちが乗っているこの地球号は、黄信号どころか既に沈没寸前なのかも知れません。

環境破壊を抱えた産業発展がなければ、就職もままならないような社会だとすれば、いずれ沈没せざるをえないでしょう。

今回の金融危機は私たちの住んでいる社会がとても危うい社会であるという警告のような気がしてなりません。

禅語に「照顧脚下」(脚下を照顧せよ)というのがあります。「足元をよく見よ」という意味ですが、「私たちの生き方の根本をもう一度考え直して見よ」という意味に取って味わってみたいと思っています。(平成二十一年一月)

音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。