このページは音声読み上げページです。下の[開始]ボタン(右矢印)を押すと、テキストの読み上げを開始します。([開始]ボタン(右矢印)が出ていない場合はここをクリックしてください。)
なるほど法話 海 潮 音
社会 第21話 子供を育てるということ
鮭は川の上流で卵からかえり、成長とともに川を下って海にいたり、そこで親になると生まれた川に戻って産卵し、産卵直後に一生を終えると言われています。
生まれた子供は親からは何も教わることなく自らの遺伝子に組み込まれた情報のみで親と同じ一生を送ることが出来るようになっているようです。
生物の中で最も進化した人類は鮭と同じようには行きません。生まれてから一人前になるまでの情報量は莫大なものがあり、とても遺伝子レベルの容量では足りませんから、生まれた後に膨大な容量を持つ頭脳にインプットされる、即ち教えてもらう仕組みになっているようです。誰から教えてもらうかと言えば、親、学校、書物を取り敢えず挙げることができましょう。
先般、テレビの報道番組で北朝鮮から中国へ脱出したある家族の追跡報道を見ました。両親と十歳の長男、それに八歳の長女の四人家族です。脱出の理由は北朝鮮には食べ物がないからという理由でした。
中国では北朝鮮からの密入国者を取り締まるために、密告を奨励しているそうで、逃げ隠れの生活しかできないようです。その家族はやはり密告され強制送還されたのですが、それでも再度の脱出に成功し、取材者との再会を果たしています。
長男は十六歳になっていました。普通だったら高校生です。「勉強したくないかい」という取材者の質問に「体がこんなに大きくなってしまったし」という答えに私もグッときました。解説では、その十六歳になった長男は小学低学年の幼稚さだということでした。親と一緒にいるだけでは成長しないのだと言うことを思い知らされました。
一方、『毎日新聞』「余録」の日本の子供についての情報では、生涯学習開発財団理事長などを務める工学博士の松田妙子さんによると、住宅の個室化で家族のコミュニケーションが損なわれると、子供は利己主義に陥り、密室が非行の温床にもなるそうで、凶悪犯罪で補導された非行少年七〇〇人の生活環境を調べたら、ほぼ全員が自室を持っていたそうです。
「子供部屋ができたせいで、しつけが満足にできないのが子供による犯罪多発の遠因」と松田さんは指摘されています。
してみると確かに親のしつけが大事だと分かるわけですが、先の例で親とだけでは幼稚なままだというのあれば、あと何がと考えると、やはり学校に行って同学年の他の子供たちにもまれると言うことが人格完成に如何に大切かと言うことかと思います。
「子供を育てる」のではなく、「子供はもまれて育つ」と言うべきなのでしょう。(平成15年9月)
音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。