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なるほど法話 海 潮 音      


社会 第19話  井上剣花坊の川柳    

萩の著名人と言えば、吉田松陰に始まる幕末の志士や維新の立て役者たちが思い起こされますが、そのような人たちとは別に、近代川柳の祖と言われ、俳句の正岡子規と並び称される井上剣花坊も忘れてはならない一人でしょう。

井上剣花坊(昭和九年没)は明治三年に萩で生まれ、苦学の末に小学校教師となり、更に明治三十六年に上京して日本新聞社に入社し、古川柳の精神を生かしつつも、革新的視点の川柳を次々に発表し、明治、大正、昭和にわたって新川柳の総帥として活躍した萩の誇る代表的文人と言えましょう。

平成十二年は井上剣花坊生誕百三十周年に当たり、それを記念して、『井上剣花坊句集』(二千四百句掲載)が井上剣花坊顕彰会から発刊されています。

また、その前年には、第二十二回全日本川柳山口大会が萩を会場に開催され、その機に井上剣花坊の句碑が十基(既設を含めると十一基)萩市内に建立されました。

その内の一つで、古萩町、長州屋光国製菓本舗前の句碑には「絶頂で 天下の見えぬ 霧の海」とあります。

山の頂上に登ってみるとガスが立ちこめていて下界は何も見えなかったという経験がよくありますが、そのような経験に、人間が絶頂期にあるとき、自分のことばかりが頭にあって、下にいる人々のことが目に入らなくなってしまうことをかけた川柳ではないかと、勝手な解釈をしています。

このような意味の川柳だとすると、いろいろ思い当たる節がお互いにあるのではないでしょうか。われわれ平民はまだしも、一国の元首の地位にある人は、心すべき一句と言えましょう。

小泉純一郎首相は構造改革を断行しうる首相、日本を救いうる首相として国民からの絶大な支持率の中、二年ちょっと前に首相になったわけですが、その後、世界の情勢が激変したとは言え、国会の会期を延長してまで「イラク復興支援特別措置法案」の成立をねらっています。

首相の頭の中には、不景気、リストラ、過労自殺などで苦しむ国民の顔よりも、先進国首脳達の顔が常に浮び、彼らに対して胸を張って渡り合う自分の姿がちらついているのではないでしょうか。

ある国立大学の学生で登校拒否となり、当山に坐禅をしに来ている学生がいます。御檀家さんから入社して数年の息子さんが会社を辞めて家にいるという話も聞きました。若者の心の弱さだけの問題ではないと思うのです。

今の日本は照顧脚下し、自分の足下を真剣に点検しなければならない状態にあると思います。アメリカ大統領のご機嫌をうかがっている時ではないと思うのですが。(平成15年7月)

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