このページは音声読み上げページです。下の[開始]ボタン(右矢印)を押すと、テキストの読み上げを開始します。([開始]ボタン(右矢印)が出ていない場合はここをクリックしてください。)


なるほど法話 海 潮 音      


自然 第9話  進化とは何か(下)    

 脳が大型化した人類の祖先は、30万年前に最後の枝分かれをしました。ネアンデルタール人と私たちの直接の祖先であるホモ・サピエンスです。

ネアンデルタール人は筋肉質でガッチリした体格をしており勇敢で愚直なハンターでした。10〜20名の集団で狩猟生活をしていました。

一方のホモ・サピエンスは脳の大きさや実用的な技術はほとんど異ならないものの、彼らの遺跡からは壁画などの芸術作品が発見されており、物事を抽象的にとらえる思考能力を持ち合わせていたと考えられています。ネアンデルタール人の遺跡からはこのようなものは発見されていません。

このような差が生じた理由の1つに、ホモ・サピエンスの海岸線での食生活があります。即ち肉に加えて海草や魚貝類など脳の発達にとって重要な食料源を新たに獲得したのです。

ホモ・サピエンスの芸術はやがて情報を伝達する能力へと変化していきました。情報伝達能力については頭蓋骨の形からも決定的な差が判明しています。

ホモ・サピエンスの頭蓋骨の形から喉(のど)を復元すると、喉頭(こうとう)の位置が低く声帯で発した音を共鳴させる空間が十分あるのに対し、ネアンデルタール人の場合は喉頭の位置が高く共鳴空間が十分確保できないため、いくつかの母音を発音できず、複雑な言語を操って情報伝達をすることは不可能だったと考えられています。

このように言語能力に欠けたネアンデルタール人は3万年前に地球上からひっそりと姿を消しました。

一方、最上の情報伝達能力である言語能力を手にしたホモ・サピエンスは、巨大な社会集団を形成し優れた知識や技術を共有することによって文明を築き今日に至っています。

 ところで言語の本質は記号化であるといわれています。記号化とは、犬を見たとき「イヌ」という記号で認識し、逆に「イヌ」という記号を見て犬の姿を思い起す能力です。

これは大脳皮質の前頭葉(ぜんとうよう)が担当し、記号と記号を結合して文章をつくる言語能力をも担っています。

この脳の発達は、基本的に言語と脳だけのやりとりで進められるため、現実の拘束を受けずに独り歩きが可能となり爆発的な『進化』を遂げつつあります。

これは明らかに「環境変動への適応化」としての「進化」からの逸脱であり、それどころか『進化』しつつある脳は環境を自分の都合のいいように変え支配しようとしています。

「環境変動」から「自分の都合」への方向転換はいつ起ったのでしょうか。それは7000年前に人類が農耕を開始し定住生活を始めた時だと考えられています。そのとき同時に、環境破壊も約束されることとなったようです。 (平成18年8月)

音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。