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なるほど法話 海 潮 音
自然 第8話 進化とは何か(中)
今回は『地球大進化6ヒト果てしなき冒険者』(NHK出版)によって、脳の進化を考えます。
前回、進化とは「環境への適応化」の意味であること、そして、脳の発達については、低酸素への適応化後の「贈り物」と申しましたが、単純ではなかったようです。
700万年前、既に人類の祖先は二本足で歩きはじめていましたが、樹上と地上を組み合わせ、主に木の実を食べて生活していました。
ところが、300万年前ごろ、大切な森が草原へと姿を変える環境変動が起り食料としていた木の実が激減したのです。
この環境変動に対し人類の祖先は勇敢にも草原に打って出ました。その際、環境適応の仕方によって人類は二種類に分かれました。
第一種、パラントロプスは、自分たちの食料を、堅いという難点はあるものの栄養豊富でしかも比較的簡単に見つけることができる地下茎に求めたため、堅さを克服する巨大なあごの筋肉を発達させました。
第二種のホモ・エルガステルの方は、草原を放浪し肉食獣の食べ残しを探すという少しあわれな方法をとりました。簡単な石器しか持っていなかった彼らには自分で狩をする力はまだなかったのです。しかし人類の最初の肉食でした。
これら二種類の人類の祖先はやがて変化を生じました。脳の大きさです。
パラントロプスの脳はそれ以前の脳と同じ500tのままでしたが、ホモ・エルガステルの脳はほぼ2倍の900tにまで増加しました。
これは肉という高カロリーの食料源と、より効率的に肉を手に入れるためのさまざまな工夫をし脳を大いに活用したことが原因となったと考えられています。
植物の根であれば、決まった場所へ行けば必ず手に入ったでしょう。しかし肉食獣の食べ残しは簡単には見つからなかったようです。
やがては肉食獣を集団で追い払い獲物を横取りできるようになりました。さらには自分たちで獲物を捕る工夫もするようになったに違いありません。
このような肉の獲得作業は、植物の根を探す作業に比べ、何倍もの努力を要したことでしょう。このことが脳を大きくする原動力となったようです。
その後、地下茎を食料とした穏やかな人類だったであろうパラントロプスは絶滅し、肉食を選び脳を発達させたホモ・エルガステルは生き残り、現代人の祖先となりました。
より困難な道への挑戦がよりすぐれた進化をとげさせ、その結果生き残ったという訳でしょう。
この脳の大型化は森の減少による食糧不足という環境変化への適応という意味で、いわゆる「進化」の範囲以内と思われますが、その後の人類は「進化」の範囲を逸脱する『進化』をとげたように思われます。次回をお楽しみに。 (平成18年7月)
音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。