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    なるほど法話 海 潮 音      
自然 第19話  カマキリ



 「万物の霊長」という言葉があります。万物の中で最も霊妙ですぐれたもの、という意味で、人類のことを指します。

 人類がそのように呼ばれるのは、恐らく他の生き物に対して最も脳が発達していることによるのでしょう。

 しかし脳が発達している分、外界からの情報を高度に処理することはできても、脳を通しての処理のため、情報の純粋性が失われ、人間性が加味された情報にすり替えられているのではないかと思われます。

 私は子供の頃から、なんとなく、自然の生き物こそ純粋な真実を教えてくれるに違いないと思っていたような気がするのですが、それは脳が発達していない分、外界からの情報を直接的にキャッチできているのではないかというようなことを単純に感じていたのではないかと想像します。

 子供の頃のそんな思いをズバリ答えてくれる本のあることを最近知りました。酒井與喜夫著『カマキリは大雪を知っていた─大地からの”天気信号”を聴く』(農山漁村文化協会、二〇〇三年)です。

 著者の酒井さんは四十年近く豪雪地帯の新潟でカマキリが産み付けた卵(卵嚢)を観察された結果、同書をまとめられたようですが、一九九七年にはこの研究で工学博士号(長岡技術科学大学)も取得されているようです。

 酒井さんの研究の出発点は「カマキリの卵が高いところにあれば大雪」という民間伝承を科学的に証明したいということだったようです。

 平成九年十月に発表された新潟県内における酒井さんの最深積雪予測は実際の最深積雪に近いものとなっているようです。

 では何によってカマキリはその年の最深積雪を知ることができるのでしょうか。

 この点について酒井さんは、カマキリが卵を産み付ける樹木(杉)の微かな振動に注目されています。

 振動は幹のある位置で最大となり、その前後との抵抗値の違いから、樹木内の水分分布の違いであろうとされ、しかもこの振動最大点は上下することから、樹木内の水分を調節する「逆止弁」(地中の水分が少ないとき高い位置に逆止弁をもうけて水分をより多く引き上げようとする)ではないかと考えられています。

 大気中と地中との間を行き来する水分の量はほぼ一定なのだそうで、夏に降水量が少なければ(地中の水分が少なく逆止弁〈振動最大点〉は高くなり)、冬に積雪が多くなることになりますが、カマキリはこの振動最大点を探り当て、そこに産卵することによって卵が雪に埋もれることなく、かといって高すぎることなく産卵しているのではないかというのです。

 カマキリも杉も、自然界の生き物って不思議ですね。(平成二十四年六月)

    

音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。