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    なるほど法話 海 潮 音      
自然 第18話  赤とんぼ



 「夕焼け小焼けの赤とんぼ」ご存じ三木露風作詞、山田耕筰作曲、童謡「赤とんぼ」の出だしです。子供の頃にはどなたも歌ったことかと思います。

 赤とんぼほど私たちになじみの深いトンボはいないでしょう。この赤とんぼの正式な名前は「アキアカネ(秋茜)」というそうです。生態が面白く考えさせられるところがありますのでご紹介いたします。

 アキアカネの卵は水田の土の中で越冬します。春に水田に水をはる頃になると孵化し幼虫(ヤゴ)になります。ヤゴは田植え直後の水田に大発生するミジンコなどを活発に捕食して急速に大きくなり、五月末から六月下旬にかけて夜間に羽化し、朝になると飛び立ちます。数日間小昆虫などを空中で捕食し、これから始まる長距離飛行に必要なエネルギーを蓄えます。

 そして群れをなして日本の夏の猛暑を避けるため、涼しい二、三千b級の山岳地帯に長距離移動を開始します。七月、八月の暑い盛りをそこで過ごし、平地が涼しくなる秋に再び山岳地帯から平地に戻り、稲刈りの終わった水田の水たまりなどに産卵します。

 産卵された卵は来年の春に水田に水がはられるまで土の中でじっと待っているのです。成虫の方は十二月上旬までにはその一生を終えるようです。

 アキアカネが涼しい山岳地帯へ移動するのは、アキアカネが氷河期に日本列島に入った元々寒冷地の昆虫だったため、日本の盛夏の暑さには耐えられず、涼しい高地に避難する習性をもったようです。

 だったらより涼しい北方へ移動すれば良さそうなものですが、高地へという縦移動を選んだ理由は日本列島をどうしても離れたくない理由があったからです。

 それは日本人が大昔から延々と営み続けてきた稲作の水田です。この水田に大発生するミジンコを餌としてアキアカネも大繁殖を遂げ、日本で最もポピュラーなトンボとなりました。

 彼らは日本人が日本の至る所にある水田に水をはるのに合わせて自らの生態をつくり、繁栄してきたのです。

 最近、「里山」という言葉をよく耳にします。人間の手入れの行き届いた自然環境を「里山」というようです。

 手つかずの森よりも里山の方が生物の種類が多いそうですが、アキアカネの人間の稲作に合わせた生態はそのことを証明しているといえましょう。

 ところが、このアキアカネは2000年頃から急激に減り、1990年の千分の一以下に減少したというデータもあるそうです。

 石川県立大学教授上田哲行氏によれば、田植え時に使う箱処理剤(殺虫剤)が原因のようです。今、日本の原風景の一つがなくなろうとしています。(平成二十三年九月)

    

音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。