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なるほど法話 海 潮 音
自然 第14話 山登り
お彼岸の行事も終わった九月末に縁あって山登りをする機会がありました。
山登りといっても近くの山ではなく、北アルプス穂高連峰を歩こうというのですから本格的です。
もっとも山頂を目指すのではなく、穂高の山頂をアタックする山男たちの拠点となる涸沢小屋(からさわごや)まで歩こうというのです。
それでも海抜2350メートルもあり、出発点となった上高地は海抜1500メートルですから標高差は850メートルもあります。
距離でいいますと、上高地から17キロありますから、標高差がなかったとしても結構疲れる距離ではあります。大変な山歩きであったことには違いありません。
その上、当日は雨でして、重いリュックは準備して行きましたが、雨具のことはあまり念頭になく、上高地の土産物店で買った各五百円のカッパと傘のいでたちで河童橋を渡って歩き始めました。
歩くうちに徐々に内から汗をかき、外からは雨にぬれ、ぐしょぐしょになりながら、いつしかそんなことも忘れて黙々と歩きました。
途中に休憩所が数箇所ありまして、それらのすべてで十分に休憩しながらマイペースで進みました。
こんな調子ですから、目的地の涸沢小屋にあと少しという頃からあたりが急に薄暗くなり始め、やっとたどり着いた時には、もう少し遅れると足元も見えなくなっていたのではと思うほどでした。
山小屋に着くと夕食時間はとっくに過ぎ、テーブルは別でしたが、小屋のスタッフの方々と一緒に食事をいただきました。
涸沢小屋のあるところは涸沢カール(日本有数の氷河圏谷の一つ)を臨む所にあります。
小屋までの登山道はカールの真っ只中にあり、ゴツゴツした大き目の石が歩き易いように並べてあるだけの粗末な道です。
近くに色とりどりのテントが幾つも張ってあり、その向こうに氷のようになった残雪が一面に残っていました。
夕食後にビールを片手に皆が集まる部屋でビールを飲んでいましたら、小屋に通じるあの石の登山道の話を聞きました。
何と、毎年凍った雪があの石の登山道を流してしまうのだそうです。
それを山開きの前に小屋の若いスタッフたちが道らしく造り直すのだそうです。イヤアー大変なことだなあと感服しました。
小屋の前の数10メートルの道をいうのではありません。はるかに見えなくなる所まで続く石の道です。
部屋には道を修復する募金のためのポスターと募金箱がありました。わずかながら協力させて頂きました。
山には自然があります。行きかう登山客の挨拶の声がこだまします。そして山を愛する山小屋スタッフたちの人間の心がありました。(平成19年11月)
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