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なるほど法話 海 潮 音      


自然 第11話  脳の進化    

昨年の本紙6月号〜8月号において「進化とは何か」と題し、「進化」とは、地球の環境変動に生物が必死についていった結果であり、いわば「環境への適応化」の意味であると考えました。

また、人類の祖先が脳を発達させることになったのも、森の消滅という環境変動による食糧不足を乗り切ろうとする努力の結果であり、同じく「環境への適応化」であったと考えられます。

生物は地球の環境変動の中で誕生し、更なる環境変動に適応すべく進化したのですから、地球が主であり、生物、特に人類は、主である地球に従った従の立場であったはずです。

ところが、3万年前に、既に言語能力を獲得していたらしいホモ・サピエンスが唯一の人類の祖先として生き残って以降、様子が一変しました。

それは言語というものの性格に起因しているようです。言語の本質は記号化であるとされますが、記号化とは、犬を見たとき「イヌ」という記号で認識し、逆に「イヌ」という記号を見て犬の姿を思い起す能力です。

これは大脳皮質の前頭葉が担当し、記号と記号を結合して文章をつくる言語能力をも担っています。この言語を操る脳は、現実を記号化したものを操るために、その発達は、基本的には言語と脳だけのやりとりで進めることができるため、現実からの独り歩きが可能となり、その結果、爆発的な進化を遂げ、文明なるものを築きました。

このこと自体が「環境変動への適応化」としての「進化」からの逸脱であるのですが、さらに脳はものを考える主体となるものであるために、人間の脳によって認識された世界においては、その脳を持つ人間が中心に位置することになったのです。

このことは、それまで地球が中心であり、その変動に人類を含む生物が必死に追従していた関係とは逆転した関係になっています。

しかし、これはあくまで錯覚でして、地球が中心であることに変わりはないはずです。ただ脳の進化があまりに爆発的であり、人間の築いた文明はほとんどの願望を達成可能とし、人間が中心であるという錯覚を現実の世界に押し付ける力をも獲得してしまったかのようです。

それは世界人口の増加数に現われているでしょう。米国勢調査局による世界人口の増加の推移は、西暦元年が2億人、同1000年が3億人、同1800年が10億人、同1900年が20億人、そして2007年の現在は65億人を突破しています。

この人類の爆発的増加は脳の進化によるのでしょうが、同時に食糧不足による人類の破滅をも暗示しているでしょう。人類が中心と思うのはあくまでも錯覚です。 (平成19年2月)

音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。