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なるほど法話 海 潮 音
自然 第10話 命の不思議
毎年、11月23日(勤労感謝の日)には山内揃って長門峡に行きます。現在、山内には小僧さんや長老さんはいませんが、以前はそういった人たちがいましたので、慰労の意味で行っていたようです。その習慣が今も続いているわけです。
実は、長門峡温泉湯ノ瀬(旧湯ノ瀬荘)の湯元一帯の土地は元来海潮寺の所有地だったと聞いています。大正時代に旧川上村の所有となりましたが、現在も湯元に海潮寺三十二世宏隆満地和尚(?〜1855)のお墓があります。山内揃ってそのお墓参りに行くわけです。そのあと、紅葉を満喫しながら鮎料理をいただき、秋の一日を楽しんで来ることにしています。
昨年のお墓参りの折、お墓のまわりの草取りをしておりますと、雑草にまぎれて青紫の花をつけた草花が目に入りました。しかし、既に鎌が半分刈り取っていました。かわいそうに思い、あと半分は何とか根がついていましたので大切に持ち帰り鉢に植えました。
傷ついたせいか育ちが悪く、一年たって再び秋がめぐってきましたが、小さい葉がちらほらついている程度です。ところがです。色々な植木鉢が並んでいる少し離れたところに、路地から生えた元気のいい草花があり、長門峡で見たあの花が咲いているではありませんか。驚きました。(写真)
どうしてこうなったのか、しばし考えてみましたが、考えられるのは、昨年鉢に植えたとき、少し花がついていましたから、その花から種が落ち、路地から元気な芽が出て育ったのでしょう。
早速、『茶花野草大図鑑』(世界文化社)で調べてみました。ありました。名前は「秋丁字」(あきちょうじ)というのだそうで、「シソ科の多年草。山の木陰で見る美しい青紫色の花は秋の到来を知らせてくれる。」という解説文がつづいています。
同書には特徴として、「本州(岐阜県以西)、四国、九州の山林内などの半日陰に育生する。茎は四角、葉は柄があって対生し長楕円形、茎の先や葉の脇に円錐形の花序を出し、青紫色で長さ二pほどの細長い唇形花を多数つける。」などと説明されています。まず間違いないでしょう。
本州中部地方と関東地方の山地に育生するものは「関屋の秋丁字」(せきやのあきちょうじ)というのだそうで、「花の柄が長いこと、花序の幅が広いこと、花序の軸に細かい毛がないこと」などで区別がつくそうです。
それにしても、思わぬかたちで「あの花」が生きつづけてくれたものです。命の危うさとともに不思議さを「あの花」をとおしてしみじみ感じた次第です。(平成18年12月)
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