なるほど法話 海 潮 音
           
生活 第44話  足を知る
   
 「文明」という言葉があります。これを悪いものと思う人はいないでしょう。「文明開化」(人知が開け、世の中が進歩すること〈広辞苑〉)という言葉があるくらいですから、悪いものであるはずがありません。しかし少し立ち止まって考えてみましょう。

 日本語としての「文明」には、①漢語としての「文明」(文教が進んで人知の明らかなこと)の意味と、②civilizaitionの訳語としての「文明」(都市化)の意味の二つがあるようです。現在、私たちが使っている「文明」は②の「都市化」の意味でありましょう。

これを木村尚三朗さんは、都市には様々な人々が集まってくるので「誰にも通用する普遍的な生き方の形式」が発達する。これが「文明」の意味とされています。たとえば交通ルールのようなものです。

しかし司馬遼太郎さんはデトロイト自動車工場の労働服に発するジーパンを例に「イカシテイル」という要素も加わると指摘されます。

交通ルールが外的利便性とすれば、イカシテイルというのは内的欲望性といえないでしょうか。

外的利便性というのは一応の限度があるように思われます。それに対して内的欲望性というのは無限大にふくらむ性質を持っているように思われてなりません。この点に大きな問題が隠されているように思われます。

一八世紀の産業革命以来、人類は文明の恩恵に浴しています。只今の日本においては本当に便利で快適な日常生活を送ることが出来ます。

しかし、地球規模で眺めますと、人口は爆発的に増加しており、そのため食料不足が懸念されています。温暖化が進み、異常気象による災害が多々報告されています。

ところで、聞きなれない言葉ですが、「エコロジカル・フットプリント」という言葉があります。簡単にいいますと、「人間の生活や活動を支えるために必要な土地面積」の意味です。

WWF(世界自然保護基金)の報告によりますと、二〇〇五年のエコロジカル・フットプリントは一七五億ヘクタールなのに対し、地球の生産力は一三六億ヘクタールしかなく、三〇%も超えているのだそうです。

これを日本だけでみますと8倍も超えているそうで、日本人は日本列島が8個も必要な生活を輸入などに頼ってしていることになるわけです。これは考えてみる必要があるのではないでしょうか。

仏教には「知足」(足を知る)という言葉があります。「そんな古くさい言葉を持ち出さなくてもいいじゃないですか」と言っていられましょうか。「温故知新」という言葉もあります。少し立ち止まって考えてみる必要がありそうです。 (平成三十一年二月)