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生活 第36話  ストレス軽減法
   
 平成27年12月1日に労働安全衛生法に基づく「ストレスチェック制度」が施行され、従業員50人以上の事業所には医師らによる従業員へのストレスチェック検査が義務づけられました。

これは会社などで人間関係の悩みや仕事の過重でストレスを抱える人が多いからのようです。

そもそも「ストレス」とは何でしょうか。『広辞苑』によると「種々の外部刺激が負担として働くとき、心身に生じる機能変化」とあります。その要因として物理化学的、生物学的要因など色々あるようですが、今は精神緊張・不安・恐怖・興奮など社会的なものが問題となっているようです。

このストレスを軽減するために、外的な職場環境の改善とともに内的な個人レベルの対処法があるとされます。

この後者について、米グーグル、アップル、インテルなどグローバル企業が取り入れている「マインドフルネス」という新しい認知行動療法が注目されているそうです。

この療法は、東洋文化の「瞑想」を基に1970年代に米で開発された療法だそうで、自分が体験する「今この瞬間」に意識を集中することで、過去の失敗や将来への不安がもたらすネガティブな感情に気づき、それらと距離を置き、やり過ごすことができるとされています(『毎日新聞』平成27年12月25日朝刊)。

マインドフルネスが基づくとされる東洋文化の「瞑想」とは「坐禅」のことでありましょう。

道元禅師は坐禅の要術を「箇の不思量底を思量せよ。不思量底如何が思量せん。非思量。」(考えないことを考えよ。どのようにか。感じるのである。)と簡潔に述べられます。

橋本恵光老師はこれを「油を溢れんばかりに満たしたバケツを一滴もこぼさずに目的地まで運んでいるときの感覚」(老師の『普勧坐禅儀の話』に出てくる内容を筆者要約)と説明されます。

これは正に「今この瞬間に集中しているありかた」を言っているでしょう。

この世に生きている自分がこの世と確実につながっているのは「今この瞬間」だけと考えてよいと思います。

過去も未来もすべては自分の観念内容にすぎません。そのような観念(過去や未来)に振り回されてストレスが生じるのであれば、「今この瞬間」に集中すればストレスは生じない道理です。

事は理屈通りではありませんが、「今この瞬間」への集中に慣れ親しむことによりストレスが軽減されるであろうことは十分考えられましょう。

坐禅は無理して足を組むことではありません。「今この瞬間」を感じ(非思量)、それに集中することこそ坐禅の本質です。椅子坐禅でも十分です。やってみてください。(平成二十八年二月)