なるほど法話 海 潮 音
生活 第25話 真の「おくりびと」
かって『おくりびと』という映画が話題を呼びました。この映画は主演を努めた俳優の本木雅弘さんが1996年に青木新門さんの『納棺夫日記』を読んで感銘を受け、青木さんから映画化の許可を受けましたが、脚本を青木さんに見せると、原作と内容がかなり異なっていたため拒否されたのですが、青木さんの意向を受けて全く別の作品として『おくりびと』というタイトルで映画化され、2009年に第81回アカデミー賞外国語映画賞を受賞しています。 この映画は納棺師が主人公だったため納棺師という職業人が一躍有名になりました。納棺師とは文字通り亡くなった遺体を棺に納める仕事をするわけですが、具体的には、遺体の衣装の着付けから始まります。 仏式(浄土真宗を除く)であれば経帷子を着用します。手甲、脚絆、足袋、草鞋を身につけ、頭陀袋を首に掛けます。これらは僧の旅支度に他なりません。故人が僧として仏道修行に旅立つ姿なのです。故人は仏道修行の先にある平安な彼岸の世界(悟りの世界)を目指して旅立つわけです。ただ今日ではこのような伝統的な意味合いが薄れ、故人が生前に好んで身につけていた服装を着せる場合が多いようです。 身支度が終わると遺体を遺族、親族が支えながら棺に納め、故人が愛用していた品を副葬品として納めます。そして棺の蓋を閉めて納棺は終了します。 しかし、この納棺の前に遺体をお湯につけて洗浄する湯灌という儀式があります。今日では病院で亡くなる場合が多く、看護師が遺体をアルコールで拭き清め、鼻、口、肛門に脱脂綿をつめ、髭や爪や髪の毛を整えてくれますので湯灌の代わりになるようです。 このようにして遺体を清め、身支度を施して棺に納めるわけですが、私が住職として枕経をあげに故人のご自宅に参りますと、故人が口を開けたままで亡くなられている場合が結構多いのです。 そうならないように処置してくれる葬儀社もあるようですが、まだ間に合う場合は私が顔を布なので縛って口を閉じるようにしたこともあります。 死後の硬直は顎の関節が最も早く一時間から四時間くらいで硬直が始まるようです。ですからそっとやさしく口を閉じてあげられるのは御遺族しかできないことになりましょう。 お棺に横たわる故人のお顔を拝し、「安らかなお顔をされていますね」という会葬者の言葉は、如何なる納棺師の技術よりも故人の尊厳を守り、御遺族の心を慰めてくれるのではないでしょうか。故人の口が開いたままではそれがだいなしです。葬儀に際し御遺族の大切な心得かと存じます。 (平成23年12月) |