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なるほど法話 海 潮 音      


生活 第20話  初 孫    

 昨年、初孫が誕生しました。その初孫が満一歳の誕生日を目の前にして、活発に動き回るようになりました。

寝返りや這い這いはだいぶ前に卒業し、十ヶ月検診では既に歩き始めていました。

今では抱っこすると余り機嫌がよろしくなく、床に降ろしてやるほうが自由が効くためか、ニコニコします。

そして、そこらじゅうを歩き回ります。特に書院は広いので喜びます。走らんばかりにぐるぐると歩き回ります。

そうこうしているうちに、廊下の方に出ようとしました。畳の書院と廊下は五センチぐらいの段差があります。

この段差を上がったり下がったりするのが事のほか嬉しいらしく、障子に左手を掛けて十分に気をつけて右足を「よいしょっ」といった感じで廊下の板に「どすん」とたたくように落としますが、左足はひざまづいてしまって、すんなり廊下に降りるといった感じでは到底ありません。

とにかく廊下側に出ると、廊下を障子一枚分よちよち歩いて、また左手を障子に掛けて右足を障子の敷居に掛け、畳の書院側に入ってきます。

これをニコニコ顔で障子のまわりをぐるぐる回りながら、何度も何度も繰り返しています。

私が「おお、じょうず、じょうず」といいながら見ていますと、廊下から畳の書院に上がるのは比較的簡単にできますが、畳から廊下に降りるのがとても難しいようです。

たった五センチの段差ですが、赤ん坊にとって段差を降りるということはとても大変な様子です。これを何度もやるのを見ていますと、僕は早く出来るようになりたいんだ、という意志を感じてしまいますが、これは恐らく「爺バカ」で、一歳未満の赤ん坊が単に同じことを繰り返しているに過ぎないというのが真相でしょう。

河合雅雄さんの『子どもと自然』(岩波新書)によりますと、他の動物たちと違って人間は出生時には、脳は三〇パーセントしか出来ておらず、生まれ出てから残りの七〇パーセントが何年もかけて出来上がるのだそうです。

これは恐らく、人間の脳が外界とのやりとりの中で発達することを意味しているでしょう。

生まれ出るとき既に出来上がっている動物たちの脳は、情報量が固定した遺伝子という内なる情報を主な情報として働くのに対し、人間の脳は外からの情報によって発達するものだとすれば、働きの面からは、やる気さえあれば原則的に無限大ということになりましょう。

一歳の誕生日を前に色々と動きが活発になってきた我が孫を見ていますと「爺バカ」の夢は際限なくふくらみます。

その孫の誕生日は、このたび迎える御開山六百回大遠忌の当日です。(平成二十一年六月)

音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。