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なるほど法話 海 潮 音      


科学 第8話  天敵    

前回、ガン細胞にこと寄せて「部分の死が全体の生を支えている」ということを申し上げましたが、自然界において「部分の死」が何によってもたらされているかと言えば、それは「天敵」だと思います。

「部分の死」をもたらす天敵がいなくなると、その動物は異常発生し、餌が無くなって絶滅します。天敵には自然界のバランスをとるという重大なはたらきがあるわけです。

平成5年1月号の本誌でモンゴル人のことを書きました。彼らは家畜として羊を飼っていますが、その羊を狼が襲うために、狼を退治しなければなりません。

彼らの退治の仕方は狼の巣穴から子供を捕まえて退治するわけですが、巣穴に4匹の狼の子がいた場合、彼らは1匹だけ残します。なぜ残すかというと、狼が全部いなくなってしまうと、羊の伝染病がはびこって羊が全滅するからだそうです。

狼に捕まる羊は弱っている羊から捕まり、それは大体病気に罹っている羊であるため、適量の狼は伝染病をくい止めるはたらきをします。

モンゴル人はそれを知っていて、1匹だけ残すことを掟として伝えているというわけです。適量の狼は羊にとって大事な医者の働きをしていることになるわけですね。

宗教評論家ひろさちや氏の最近の本に、関口武著『気象と文化』からの話として次のような話が紹介されていました。一九五〇年代前半、エチオピアのある村での話です。

その村ではマラリアによる乳幼児死亡率が80%を越えていたため国連のWHO(世界保健機構)はイタリアの医師団を派遣して、マラリアの撲滅作戦を展開しました。

作戦は大成功で、わずか5年でマラリヤは完全に駆逐され、乳幼児死亡率も10%に下がりました。イタリアの医師団は意気揚々と引き揚げ、WHOの功績は大いに宣伝されました。

ところが、10年後、事後調査団がエチオピアに派遣されましたが、彼らは目標の村に行けませんでした。なぜなら、村は消滅していたからです。

マラリア撲滅の結果、村の人口が増え、村の耕地面積では村人の胃袋を満たすことができなかったのです。何とも痛ましい話ではありませんか。

私はこの話を読んで、おやっ、と思いました。天敵というのは自然界での話で、人間には関係のないことと思っていましたが、人間も自然界の生き物の一つであれば、天敵がいてもおかしくありません。

ひょっとして人間の天敵は病原菌(ウイルスなども)なのかなと思ったのです。人類は大事な天敵を目の敵にして撲滅しようとしていることになるのでしょうか。 (平成12年12月)  


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