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なるほど法話 海 潮 音      


人生 第 7 話  今を生きる    

言葉というのは不思議ですね。皆様もよくご存じと思いますが、古代ギリシャの哲学者ゼノンは「アキレス(ギリシャ神話の英雄)は亀を追い越すことができない」と言いました。なぜなら、アキレスが亀のところに達する間に亀はその少し先へ進み、これを無限に繰り返すからというのです。

現実には簡単に追い越すことができるでしょうが、言葉にすると、こういうことになります。言葉は人にものを伝えることができる大変便利な道具ですが、一方で、言葉で考える限り、現実のありのままをつかまえきれないことを知っておかなければなりません。

言葉の世界に住んでおりますと、過去も未来も歴然と存在するかの如くですが、現実には「今」が連続しているだけだと思います。窓の外をじーっと眺めていますと、木の枝がやさしく揺れています。その 「今」の連続と比較できる過去があるかどうか、未来があるかどうかと考えてみますと、現実には無いというべきでしょう。あるのは言葉で考えた「過去」や「未来」があるだけです。

私たちが「苦しみ」を感じているとき、往々にしてこの言葉の世界にすぎない「過去」や「未来」に苦しめられていることが多いのではないでしょうか。現実にはそのような「過去」も「未来」もありません。あるのは今の連続だけであります。その「今」に徹する生き方こそ真の生き方というべきでありましょう。

言葉による教えである「経典」に次のようにあります。「過ぎ去れるを追うことなかれ。いまだ来たらざるを念うことなかれ。過去、そはすでに捨てられたり。未来、そはいまだ到らざるなり。されば、ただ現在するところのものを、そのところにおいてよく観察すべし。揺らぐことなく、動ずることなく、そを見きわめ、そを実践すべし。ただ今日まさに作すべきことを熱心になせ。」(中部経典、一三一、増谷文雄訳) (平成11年9月)


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