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なるほど法話 海 潮 音      


人生 第 6 話  生かされている世界    

私たちの世界は、「生きている世界」と「生かされている世界」という二重構造になっているように思います。

「生きている世界」というのは、上は、人間として崇高な目標を持ち、その目標に向かって努力邁進する生き方から、下は欲望に流され度を過ごして犯罪まで犯してしまうような生き方まで、良くも悪くも、いわゆる人間的な生き方であり、「意識」の世界であります。

一方、「生かされている世界」とは、あるがままの世界であり、この世に生まれ、少しずつ年を取り、その間に病気にもなり、やがて死んでいく世界、人間の「意識」とは無関係な世界です。「意識」以前の世界ですから、人間の「思うままにならない」世界であります。

私たちは、このあるがままであり、思うままにならない「生かされている世界」の中に生かされておりながら、「意識」(自我)によって「生きている世界」をつくりだし、それがすべてだと思って悪戦苦闘しているわけですが、ふと「生かされている世界」に気付くとき、大きなものに包み込まれた安心感に浸るのではないでしょうか。これが宗教の世界ではないかと思います。

例えば最近のスポーツニュースを例に取りますと、近鉄の盛田投手は脳腫瘍(発覚当時直径五センチ)で選手生活が危ぶまれました。しかし、手術のあと、復帰したいの一念で二年間の厳しいリハビリに耐え、見事一軍昇格直前までこぎ着けました。そのときのインタビューに「やっとスタートラインに着くことができました。これからは楽しんで投げたいと思います。また、感謝して投げたいと思います。」と淡々と述べていました。

復帰したい一念で二年間もの厳しいリハビリに耐えたのは「生きている世界」のことでしょうが、「感謝して投げたいと思います」ということばは、「生かされている世界」を感じ取った人のことばだと思います。人間が上手に生きるためには、この両方の世界のバランスをとることが肝心かと思います。(平成11年10月)


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