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なるほど法話 海 潮 音      


人生 第 4 話  文明より文化    

文明とは、「シビリゼーション」の訳語ですが、この語の前半の「シビル」は「都市民的な」という意味ですから、文明は都市に関係します。都市には、さまざまな地方からさまざまな人々が集まってきますから、そこには誰にも通用する普遍的な生き方の形式が発達し、それが文明だと言われます。

例えば交通ルールがそうですし、西洋に端を発した科学は文明の代表です。作家の司馬遼太郎氏は、アメリカ生まれのジーパンを例に、誰もが「イカシテイル」というかすかな快感を伴うのが文明だと言われ、村上陽一郎氏は、文明には自然に手を加えて人間に都合よく変えていくという方向性があると述べられているように、文明は、人間の都合、即ち「誰もが持つ欲望」に基づくということによっても普遍性という性格が出てくるようです。

一方、文化は、「カルチャー」の訳語ですが、この語はもともと「耕作」という意味を持っていますから、農耕や土地に関係します。したがって、その土地独特の生き方の形式が文化だと言われます。

例えば、日本の風土にぴったりの木造建築は日本の文化ですし、ご婦人が両ひざをついてふすまをあける開け方は決して普遍的ではなく、日本独自のものであり文化です。その姿は来客に秩序についての安堵感を与えると司馬遼太郎氏は言っておられます。すなわち文化とは、その土地の風土の中で、その生き方が最善だとしてまわりの環境世界が人々の心に刻み込んだものだと言うことになります。文明が人間の欲望の方から外部の環境世界を変えようとする方向と丁度反対の方向性を持つと言えます。

人類は長い間、文化によって生きてきましたが、ここ一、二世紀の間に文明に鞍替えしました。確かに生活は便利になりましたが、欲望は際限なくふくらむために落ち着きません。それに反して、風土がつくる生き方は安定感があり、安らぎをもたらします。最近の世相を見るにつけ、文化としての生き方を取り戻したい思いで一杯です。 (平成11年1月)


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