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なるほど法話 海 潮 音
人生 第14話 「舌切りスズメ」
日本の昔話に「舌切りスズメ」というのがあります。どなたもご存じの話と存じます。
私が住之江保育園に通う頃、もう六十五年も前のことですが、その保育園で園児たちが「舌切りスズメ」の劇をしました。
こともあろうにおじいさん役を私がしたのです。どんな風にやったのかほとんど覚えておりませんが、ただ、その時の写真があったものですから、後年、その写真を見る機会があり、どうも
自分がやったらしいと覚えているわけです。
その頃の私は昔話一つ読んだ記憶もなく、外で近所の子供たちとかけずり回って遊んでばかりいました。
自分の娘たちの子供時代を思い出したり、ただ今の孫たちを観察しますと、幼児期から本を与えられ、キチンと読書の習慣を持っているようですが、それに比べると、私の幼児期は何と
もったいないことをしたものだと、今しきりに悔やんでいます。
しかし、そんな遊び癖は生涯直る兆しはなく、時間を盗んでは今だに遊んでいます。
ただ、遊びと言っても、所謂、大人の遊びではなく、自然を相手に遊んでいます。まだ隠居しているわけでもなく、出かけて本格的なアウトドアの遊びができるわけでもありません。家の
庭で遊んでいるに過ぎません。
どんな遊びかといいますと、スズメに餌をやる遊びです。ホームセンターをうろついておりますと、「野鳥の餌」と書かれた袋が目に入りまして、それを買って始めた遊びです。
スズメたちは一、二週間ですっかり馴れ、餌はまだかなあ、と生け垣のあちこちから顔だけ出して、待っているようになりました。
夕方暗くなってアルミサッシを開け、庭に出ようとすると、頭上の軒差しから驚いたようにスズメが飛び出しました。あるいは軒差しをねぐらにしようとしていたのでしょうか。
ある日、それまでの様子が逆転し、人気を感じると餌場で群がったスズメたちが蜘蛛の子を散らすように逃げるようになりました。
余りの変化に何があったのかと思っていましたら、数日後、庭に出て発見したのは野良猫の鋭い目でした。人間である私もウッと思うほどです。
なるほど、スズメが群がって餌を食べるのを見れば、野良猫の本性も当然あらわとなることでしょう。ひっくるめて自然であるわけです。
その後、野良猫君には遠慮してもらいましたが、スズメたちの様子は以前程には戻りません。
でも今は繁殖期で、ひな鳥を連れてやってくるスズメもおり、ひなに餌をやる姿も見ることができます。
考えてみると、六十五年たった今、現実に「舌切りスズメ」の「おじいさん役」をやっていることになるのでしょうか。 (平成二十九年六月)
音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。