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なるほど法話 海 潮 音      


人生 第13話  ある少女の選択    

 「延命・ある少女の選択 生と死」と題するテレビ番組(NHK総合・クローズアップ現代、十二月八日)を見ました。延命治療を考えるよい事例と思い書き留めておく事にしました。

医学の発達によって延命治療は格段に進みました。しかし、延命による命は人間的な命かという問題があります。

番組では、心臓に重い病気を持って生まれ、八歳で心臓移植を受け、十五歳で人工呼吸器を付けて声を失い、必死で闘病生活を続けてきた田嶋華子さん(平成二十二年九月十四日没、享年十八歳)の記録を紹介していました。

華子さんが声を失ってまで人工呼吸器を付けたのは背骨が曲がる病気で呼吸が困難になったからでした。番組を見た限りでは、三年前に在宅治療が可能となるまではずっと病院での闘病生活だったようです。

華子さんは家族と一緒に当たり前の生活をすることを何よりも望んでいたらしく、次に何かあったときは、これ以上の延命治療は受けたくないと考えていたそうです。

自分のそうした選択を伝えたいために、ありのままの姿を記録することを承諾してくれたのだそうです。

六月になってその何かが起きました。腎不全を発病し透析を受けなければ命に関わるとの診断でした。

透析は在宅では難しく、入院が必要という説明を医師から受けましたが、華子さんは前から考えていたように、これ以上延命治療は受けず、家族と一緒にふつうに過ごすことを決断したのだそうです。

ご両親は当然葛藤があったわけですが、本人の考えを尊重しようと必死にこらえておられた様子です。

「死はこわくないの?」という取材者の質問に華子さんは筆談で「心があるからこわくない」と答えています。また取材者へのメールには「医療は全部受けたつもりだし穏やかに過ごしたいです」「命は長さじゃないよ。どう生きていくかだよ」とも答えています。

七月、華子さんは診療所のスタッフに支えられ、ご両親と一緒に一番好きだった海辺に一泊二日の家族旅行に出かけました。旅行の後、助けてくれた人たちに次のような手紙を残しています。

「華子です。大磯では、家族でゆっくりしたいという希望を叶えて下さって、ありがとうございました。大好きな海の傍まで行けたことがとても嬉しかったです。両親とたくさんの楽しい想い出を作ることができました。自然の風を感じたり、セミが鳴いていたり、トンボも窓ガラスに来て楽しかったです。緑の匂い、空気、木の匂い、海の匂い、優しい人たちのいい匂いを、私は忘れません。いっぱいいっぱい、ありがとうございました。華子より」

 (平成二十三年一月)

音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。