このページは音声読み上げページです。下の[開始]ボタン(右矢印)を押すと、テキストの読み上げを開始します。([開始]ボタン(右矢印)が出ていない場合はここをクリックしてください。)


なるほど法話 海 潮 音      


文化 第4話  手入れの思想(2)    

「手入れの思想」とは、偉大な力は人間の側ではなく自然の側にあると自覚した上で、人間の望む方向に自然を引っ張っていくことを説く思想かと思います。

先日、これを当に地でゆく姿をNHKテレビで見ました。それは、茨城県の岩瀬弥隆さんという方の白菜作りの紹介番組です。岩瀬さんは甘い白菜作りに十二年間かけてやっと成功しました。

アナウンサー氏が岩瀬さんの畑に取材に行ったところ、そこには青々とした白菜は一つもなく、茶色に枯れかけた、ちょっとばかり哀れな白菜が見渡す限り植わっていました。実はその枯れかけた葉に秘密があったのです。

冬前に成長した白菜は、収穫されず越冬させられます。朝晩の寒さで白菜の表面に霜がつき、毎日霜に痛めつけられ、白菜は外側の葉から少しずつ枯れ始めます。こうなった時点で、白菜は偉大な力を発揮し、自らの力で葉っぱが霜で枯れないように内部改造を開始します。

すなわち、葉っぱに霜がついて葉が凍るために枯れるわけですから、葉っぱ自体が凍りにくくなればいいわけです。それを白菜は自分の力で克服するというのです。

どうするのかといいますと、白菜は自分の根に蓄えられているデンプンを分解し、それを糖分に換えて葉っぱの方に供給するのです。糖分を供給されて甘くなった葉っぱは、普通の葉っぱより濃度が高いために凍りにくいというわけです。これは、塩分によって濃度が高くなった海水が、マイナス30度位にならないと凍らないのと同じ理屈かと思います。

しかし、既に枯れてしまった葉っぱはとれてしまい、中の新しい葉っぱに霜の直撃が当たると、どうしても枯れますので、枯れた葉っぱがとれないように白菜を一つずつ紐でくくる必要があるそうです。見渡す限りの白菜ですから大変な仕事というべきでしょう。

ともあれ、紐かけで外側は枯れても、一枚むくと中は青くてみずみずしく、とっても甘い素晴らしい白菜が隠れているというわけです。その甘さたるや、リンゴやミカンに負けない程だというからすごいですね。この白菜を作るには、寒さに強いということが条件だそうで、岩瀬さんはそんな白菜を見つけ出すのに十二年間もかけています。

しかし、寒さに強い白菜を探し出すのは人間でも、根に蓄えたデンプンを糖分に換え葉っぱに供給するのは自然の力です。自然の力を数式に写し取ったにすぎない自然科学も「自然の力」そのものを作り出すことは出来ません。肝に銘ずべきことかと思います。(平成13年4月)  

音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。