このページは音声読み上げページです。下の[開始]ボタン(右矢印)を押すと、テキストの読み上げを開始します。([開始]ボタン(右矢印)が出ていない場合はここをクリックしてください。)


なるほど法話 海 潮 音      


仏教 第 5 話  死を忘れた文化    

会報『人間』の編集者、藤井義正氏の発言をまずご紹介します。

「現代人は、科学や医学が進歩し、私たちはその恩恵に浴しながら生きている。これはありがたいことである。ありがたいことだが、その代わり、苦しいことや危機に対する精神的肉体的耐性は、すっかり脆くなってしまった。暑ければ冷房、寒ければ暖房と、不快なことは科学が排除してくれた。病気になると医学が治してくれる。それが当然と思うようになった。

(中略)そういう人生観や価値観は病気の人を苦しめるものとなるのである。私は、病気の人が病気を受容し精神的な苦痛から解放されるためには、こういう現代の「死を忘れた文化」を土台にした人生観、価値観から解放されることがなにより必要だと思うのである。」

右の発言には、科学は不快なことを排除してくれるありがたい存在であるけれども、それを追い求めれば求める程に、それが当たり前という錯覚を生み、かなわない時の苦痛が倍増してしまうという矛盾が指摘されています。

この矛盾を解消するためには、どのようにしたらよいのでしょうか。それは、科学の恩恵をありがたいと認めると同時に、それが当たり前という錯覚を生まないということでしょう。

そのことのために、仏教の開祖、釈尊の説かれた「諸行無常」の教えが参考になると思います。「諸行無常」とは、すべてのものは常なるものは無いということですから、私たちの人生についていえば、いつかは終わり、すなわち「死」がやってくることを自覚すること、いわば「死を自覚する文化」に立つということです。

世の無常を深く理解すれば、人生の終止符(死)も受け入れられるでしょう。そうすれば、今いきていることがありがたいと思えるし、それを支えてくれているすべてのものもありがたいと思えるでしょう。要は、眼を開いて「無常」という真理を感得できるかどうかにかかっていると思うのです。(平成8年7月)


音声読み上げ機能については、日本アイ・ビー・エムの「ボイスらんど」のページ(http://www.ibm.com/jp/voiceland/)をご覧ください。