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なるほど法話 海 潮 音      


仏教 第25話  お墓    

 「私のお墓の前で、泣かないでください。そこに私はいません。眠ってなんかいません。」ご存知「千の風になって」の出だしです。

この歌はアメリカ合衆国発祥とされ、新井満さんが日本語に訳して曲も付け、テノール歌手の秋川雅史さんが歌って一躍有名になった歌です。

ヒット曲に文句を付けても野暮な話ですが、お墓の話をするからには触れずに通るわけにはいかないでしょう。

この歌は日本語で歌われていますが、もとは英語であり、日本人の心を歌ったものではないことを決して忘れるべきではないと思います。

 私たち日本人の古代文化は大陸からの渡来人によってその多くが築かれました。更に仏教伝来によって中国的要素は二重三重に積み重なったことと思います。

その古代の中国的要素とは儒教ですから、日本を含む東北アジアを儒教文化圏と呼ぶことがあります。

儒教文化圏に住む人々は死というものをどのように考えたのでしょうか。

東北アジアは南アジアのインドとは違って温暖で住みやすいため、古代中国人もなるべく長くこの世にいたいと考え、たとえ死んでも、またこの世に帰ってくることができるように願い、その方向で死というものを考えました。

儒教が、まだ儒(じゅ)と呼ばれる時代の話ですが、人々は人間の死を魂(こん、精神の主宰者)と魄(はく、肉体の主宰者)とが分離した状態と考えました。

従って、分離した魂と魄とを一つにできれば、元通りというわけにはいきませんが、ある意味でこの世に帰ることができると考えました。

分離した魂と魄とを一つにする儀礼を招魂儀礼(しょうこんぎれい)といいます。亡くなった親に招魂儀礼のお祭りをしてこの世に帰って来て頂く行為が子にとっての最高の「孝」であるとされています。

インドから中国に伝えられた仏教が中国で根づくためには、この招魂儀礼としての孝の教えを取り込む必要がありました。そうしてできたものが先祖供養であります。

招魂儀礼では故人の白骨化した頭蓋骨に魂と魄とが寄り付くことでこの世に帰ってくることができるとされています。

天に上った魂を香りのよい香を焚いて呼び戻し、地下にもぐった魄を香りのよいお酒を地面にまいて呼び戻します。故人の白骨化した頭蓋骨の保管場所がやがてお墓となりました。

そんな古代人の思いが私たち日本人の心の底にもあるのです。お墓にも故人の魂(たましい)が眠っていると考えて間違いないと思います。

安心してお墓参りをして下さい。お墓でありし日のお話をして下さい。ご先祖さまがまっておられます。(平成二十二年六月)

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