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なるほど法話 海 潮 音
仏教 第21話 愛語のむつかしさ
観音さまは仏さまの慈悲の面を具象化した菩薩さまといわれています。ですから観音さまのお顔はとてもやさしいお顔をしておられます。
でも、十一面観音は文字通り十一のお顔がある観音さまで、正面は慈悲面で、やさしいお顔をしておられますが、後方の隠れたところは暴悪大笑面(ぼうあくだいしょうめん)といわれ、これは恐ろしいお顔をしておられます。
やさしいはずの観音さまが恐ろしい顔を後ろに隠しておられるというのはどういうことでしょうか。
観音さまには色々な観音さまがおられます。慈母観音という観音さまがおられるように、観音さまには母親のイメージがあります。
母親がわが子に向けるやさしさは、慈悲の心を代表するものといってもよいでしょう。でも、わが子が成長するにしたがって、やさしさ一点ばりではなくなります。
叱るべきときには、誰よりも恐ろしい顔をして叱ります。これが母親の親心でありましょう。
真の慈悲は一方的な慈悲ではなく、相手のことを考えての慈悲でありましょうから、相手が間違っていれば、恐ろしい顔をして正してやるのが真の慈悲と言えましょう。
十一面観音の暴悪大笑面はそのような慈悲を意味しているものと思われます。
先日(七月十六日)、愛知県の東名高速上り線でバス乗っ取り事件が発生しました。監禁などの現行犯で逮捕されたのは、中学二年の少年(14)でした。
取調べに対し「家族をめちゃくちゃにしたかった」などと供述しているとのことです。どうも親に叱られて思いついた犯行のようです。
調べの中で男女の交友関係も浮かんでいるようですから、親もわが子のことを考えて叱ったものと思われます。
一昨日(同十九日)の未明、今度は中学三年の少女(15)が父親を刺殺するという事件が起りました。調べに対して少女は「勉強しろと言われることが煩わしかった」と供述しているとのことです。
バス乗っ取り事件と似たところがあるように思います。共に親心を推し量ることができずに、表面的に反抗し、重大事件を起してしまったようです。
道元禅師さまは「愛語というは、衆生を見るに、先ず慈愛の心を発し、顧愛の言語を施すなり」とお示しです。
可愛いわが子が中学生であれば、中学生らしく生活して欲しいと誰しも思うことでしょう。それが親としての慈愛の心でありましょう。
その慈愛の心は場合によっては、恐ろしい顔で怒ることもあるでしょう。でもこの度の中学生の事件を思うと、「愛語」を口にするのも難しい世の中になったと感じないわけにはいきません。 (平成二十年八月)
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